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第781号 2026(R8).06発行

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温暖化に伴う水稲向け全量基肥専用肥料の早効きについて(前編)
-高温化による被覆肥料の溶出促進と水稲生育の早期化との関係-

ジェイカムアグリ株式会社 技術管理本部
技術顧問 加藤 直人

1.夏の高温化

 気象庁のデータ(都市化の影響が小さく特定の地域に偏らないように選定された15地点の月平均気温データ)によれば,日本の夏(6月~8月)の平均気温は年次変動を繰り返しながらも長期的には100年あたり1.38℃の割合で上昇している1)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 特に直近の3年間は高温化が顕著であり,基準値(1991~2020年の30年平均値)からの偏差は2023年と2024年ではともに+1.76℃となり統計を開始した1898年以降の最高を記録した。2025年は+2.36℃とさらに最高値を更新した。以前は,北海道や東北などで低温と日照不足による冷害が繰り返されてきたが,2003年を最後にコメ生産に大きな影響を及ぼすような冷害は発生しなくなり,反対に高温・乾燥による減収や品質低下が目立つようになった。

 特に2023年は日本海側を中心に出穂後のフェーンによる高温・乾燥の影響が大きく,白未熟粒や胴割れの多発によりコメの外観品質が著しく低下した2)。また,全国の作況指数は101と平年並みであったが,北海道や東北太平洋側では登熟期の高温多照により作況指数102~105の「やや良」,一方,東北日本海側や北陸などでは生育前半の日照不足による籾数減少と7月下旬からの高温・乾燥による登熟不良が重なり「やや不良(98~95)」となる県が多く地域によって差が生じた3)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 開花期の穂温が33℃付近を超えると不稔率が増大するという報告もあり4),今後さらに高温化が進めば高温不稔による大幅な減収も懸念される。「日照りに不作なし」のことわざが通用しない時代が来るかもしれない。

2.高温化による被覆肥料の溶出促進と水稲生育 の早期化

 農村における高齢化と人手不足,担い手への農地集積と経営規模の拡大5)によって施肥作業の効率化・軽労化が必要となり,水稲作を中心に被覆尿素を用いた全量基肥施肥が広く普及している。被覆尿素の溶出速度はリニアタイプ,シグモイドタイプのどちらも温度によって大きく影響を受けるため,高温化に伴う窒素肥効発現の早期化によって生育前半の過繁茂と生育後半の窒素不足・登熟不良を招くのではないかと心配する声がある。

 しかし,高温条件では水稲の生育ステージも早く進むので,肥効速度と生育速度の間のずれはそれほど大きくなく栽培上問題にならなかったとする報告例が多い。

 例えば,栃木県の事例によると,「コシヒカリ」の出穂期の平年値は8月3日であるが,高温年(2001年)には出穂が9日早まり,平年に近い年(1996年)は2日遅れ,低温年(1993年)には12日も遅れた6)。しかし,栽培期間中の地温データを用いて反応速度論によってLPコートシグモイド100日溶出型(LPS100)とLPコートSシグモイド100日溶出型(LPSS100)の出穂20日前までと出穂期までの窒素溶出率を求めたところ,年次間で大きな差がなかった(表1)。

 また,秋田県大潟村内の試験場圃場で重窒素(15N)標識被覆尿素を用いて育苗箱全量施肥による不耕起移植栽培での被覆尿素の溶出率や利用率の年次変動を確認したところ,水稲の生育ステージごとの溶出率や利用率は年次間差が少なく(図1,表2),成熟期における施肥窒素利用率は平温年(1992年)で79%,低温・寡照の大冷害年(1993年)でも82%とともに高く安定していることが確認されている7)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 千葉県では4~8月の平均気温の年次変動と「コシヒカリ」の出穂期の年次変動を解析した結果,過去40年間で平均気温は0.05℃/年の割合で上昇し(図2),出穂期は0.26日/年の割合で早くなった(図3)。

 しかし全量基肥に含まれている被覆肥料の出穂期までの溶出率を2020年~2023年に調査したところ,主力3品種ともに52~56%で大きな年次変動もなく(図4),これにより登熟期間の窒素栄養が維持され分施体系よりも登熟歩合や整粒割合が向上したと考えられている8)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 しかし,より厳密に言えば被覆肥料の温度依存性(感温性)は銘柄によってわずかに違いがあり,水稲生育の感温性も品種により異なる。生育温度の変化による自然日長下の出穂変動は一般に寒冷地種および早生種で大きく,西南暖地種および晩生種で小さいとされている9)。また水稲の生育量や肥料の利用率は日照条件の影響を受ける10)。地温は気温だけでなく水温,日射量などの影響を受けるので,例えば梅雨明けが早く日射量が多いと地温が高まるので被覆肥料の溶出が早くなることも指摘されている11)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 このため品種特性,作期(播種時期),肥料銘柄,気象条件によっては被覆肥料の溶出速度の年次変動と水稲の生育速度の年次変動との間にずれが生じる場合もあり得る。反応速度論的解析により「コシヒカリ」の幼穂形成期とシグモイド型被覆尿素の溶出開始期の感温性を比較した事例では,被覆尿素の見かけの活性化エネルギー(感温特性値)は「コシヒカリ」よりも低く,特に溶出期間が短い60日溶出型で「コシヒカリ」との差が大きかった12)(表3)。

 また,被覆尿素の溶出開始までの標準温度変換日数(地温25℃に換算した日数)は60日溶出型で35日,80日溶出型で47日,100日溶出型で53日となり,「コシヒカリ」の幼穂形成期までの標準温度変換日数46日と比較して60日溶出型では短く,80日溶出型では同等,100日溶出型ではやや長いことが示された。

 1kmメッシュ気象データから推定した地温を用いて岡山県中北部の幼穂形成期と肥料の溶出開始期を年次ごとに推定したところ,80日溶出型では両者の差が平年,低温年,高温年のいずれもほとんどの地域で±5日以内と小さく,安定した穂肥相当の窒素供給が可能なことが示された。一方,60日溶出型では幼穂形成期の2週間程前,100日溶出型の肥料では1週間程遅れて溶出が始まる地域が多かった。

 特に60日溶出型では低温年において幼穂形成期の20日以上前に溶出が開始する地域もあった。以上のことから岡山県中北部のコシヒカリ栽培では80日溶出型が適していると報告されている12)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 住田ら13)は地温の推移が異なる2000年~2002年の3年間で被覆尿素の溶出速度と水稲生育の年次変動を調査した結果,LP70やLPS80の溶出速度の年次変動は水稲生育のずれにほぼ呼応したが,LP40やLPS60の溶出速度のずれは水稲生育のずれを大きく超えたと報告している。寒冷地は田植え時期の地温が低いため活着・分げつ開始が遅くなりやすいので,穂数確保のために基肥重点の施肥をすることが多いが,低温により溶出期間の短い被覆尿素の溶出が遅延すると分げつが遅くなり目標収量の達成が困難になると懸念される。

 しかしこの住田ら13)の報告例でも,被覆尿素を用いた「ふくひびき」の移植栽培や「あきたこまち」の湛水直播栽培における施肥窒素の利用率や収量は硫安を用いた分施体系と同等以上であったので(表4),試験実施年度の範囲内では栽培上の大きな問題はなかったと思われる。

 以上のように,温度変化による被覆肥料の溶出速度の年次変動は水稲の生育のずれと完全には一致しないが,品種や地域ごとに適正な被覆肥料を選択すれば少なくとも分施体系と同等の収量を確保できると期待される。

3.高温登熟対策のための施肥改善

 冒頭で述べたように,近年の著しい高温化によってコメの品質低下が大きな問題となっており,これに対応するため全量基肥専用肥料の緩効率や使用する被覆尿素の変更を検討した事例もある。

 杉浦ら(14)は「コシヒカリ」の白未熟粒発生抑制を目的として,慣行の全量基肥専用肥料よりも生育後期の窒素肥効を高めた改良肥料による栽培試験を2年間実施し,慣行肥料に比べて籾数はやや減少するが登熟歩合と千粒重がやや高まるので収量差はなく,また白未熟粒の発生が抑制され整粒歩合が有意に向上したと述べている(表5)。

 荒木ら(15)も,高温年に対応できる「ヒノヒカリ」の全量基肥専用肥料の改良を目指して緩効率と溶出タイプの構成を検討し,いずれの年次も配合内容による影響は小さく収量・品質に有意差は認められなかったものの,高温年には従来使用されていたLPSS100の一部をLPS120に置き換えると収量と整粒歩合がわずかに増加する傾向が認められたと報告している。

 しかし,生育後半の肥効に過度に重点を置くと前半の肥効が不足し籾数減少により減収する可能性がある。また白未熟粒の発生を抑制するためには登熟期の葉色をある程度維持する必要があるが,それにより玄米タンパク質含有率が高まり食味が低下するリスクもある。

 白未熟粒割合と玄米タンパク質含有率には年次(14)(図5)や品種16)(図6)によって傾きは異なるが明瞭な負の相関があることが知られている。近藤ら17)は,全国規模の連絡試験を解析し,基白粒は出穂後20日間の平均気温が26℃以上になると急増するが,特に玄米タンパク含有率が6.5%未満と低い場合に発生しやすいと報告している(図7)。

 このようにコメの外観品質と食味の間にはトレードオフ関係が現れやすい。以上のことから,従来の全量基肥専用肥料の構成を見直す場合には地域ごとに複数年の栽培試験を実施して収量・品質・食味に及ぼす影響を確認する必要がある。

 現在,高温登熟によるコメの品質低下の対策の一つとして葉色診断に基づいて2回目穂肥の追加や出穂期追肥を指導する例が多い18-22)。例えば,新潟県では「コシヒカリ」の追加穂肥の目安を分施,全量基肥,減化学肥料栽培体系ごとに整理して示しており,化学肥料による全量基肥栽培では,出穂期の葉色値が32~33(SPAD)を下回ると予想される場合は出穂期10日前に1kg/10aを目安に追加施肥を行うように指導している18)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 このように全量基肥栽培で施肥作業の省力化を図りつつ,生育状況に応じて追加的な施肥を行い白未熟粒の発生を抑制することが当面の合理的な対応法であると思われる。ただし,登熟温度が28℃以上になると穂肥を増やしても背白粒が減少しなかった例もあるので16)(図8),今後,より一層の高温化傾向が続くのであれば施肥法の見直しだけでは対応できない。高温耐性品種の導入とその品種に適合する全量基肥専用肥料銘柄の開発が必要になろう。

 近年の窒素供給の前倒しや生育後半の窒素栄養凋落には,高温化による被覆肥料の溶出促進の他にも様々な要因が複雑に絡んでいる可能性があるので,高温登熟被害を軽減するために全量基肥専用肥料の構成を見直す場合には事前に下記の点を考慮する必要がある。

・施肥作業の早期化による肥料利用率 の低下や被覆肥料溶出の前倒し
・良食味米生産指向による施肥窒素の過度な削減
・田畑輪換の長期継続による地力窒素の低下
・気象の極端現象に伴い増大する土壌窒素発現量の年次変動
・移植後の気象条件による施肥窒素利用率の変動
・還元障害などによる根活力・養分吸収能の低下

 これらの要因によって,見かけ上,全量基肥専用肥料の肥効が生育前半にシフトし,幼穂形成期以降の肥効が不足するように感じてしまう場合があると思われる。紙面の都合により,これらの要因の詳細ついては次号の後編で解説する。

works cited

1.日本の季節平均気温,気象庁,
 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/sum_jpn.html

2.令和5年産米の農産物検査結果(確定値), 農林水産省,令和6年12月27日,
 https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/attach/pdf/index-82.pdf

3.令和5(2023)年産水稲の作柄について,令和 5年度第2回水稲の作柄に関する委員会配布資料,農林水産省,
 https://www.maff.go.jp/j/study/suito_sakugara/r5_2/attach/pdf/index-6.pdf

4.吉本真由美 他,猛暑年に国内水稲の高温不稔の実態を調査,モデル化で将来予測も可能,農研機構研究成果情報(2021)

5.八木宏典,変貌するわが国の水田農業と大規模経営の特徴,植調 51(10),p.270-274(2018)

6.森聖二,水稲コシヒカリの全量基肥栽培における生育特性の解明,栃木県農業試験場研究報告52号,p.19-29(2003)

7.金田吉弘・土屋一成,育苗箱全量施肥による不耕起移植水稲における窒素の利用率と気象変動の関係,日本土壌肥料学雑誌,68(2),p.112-115(1997)

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 https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/shikenkenkyuu/documents/r6n01.pdf

9.細井徳夫,気象要因による水稲生育の変動性に関する研究Ⅲ.感温性,感光性および基本栄養生長性と自然日長下のおける出穂の温度反応の関係,育種学雑誌,29(4),p.29-304(1979)

10.廣川智子・伊藤純雄・北川靖夫,中粗粒質灰色低地土のおける良質米栽培時の土壌窒素および施肥窒素の動態と施肥技術,富山県農業技術センター研究報告,15号,p.1-66(1995)

11.北川 寿,暖地水稲の温暖化に対応した全量基肥栽培における窒素管理の改善策,土づくりとエコ農業,日本土壌協会編,43(4),p.39-44(2011)

12.森次真一・石橋英二・大家理哉,水稲の感温特性を考慮したシグモイド溶出型被覆尿素の選定法,日本土壌肥料学雑誌,80(1),p.49-53(2009)

13.住田弘一・加藤直人・西田瑞彦,寒冷地水田における肥効調節型肥料の窒素発現の温度依存性,東北農業研究,56号,p.57-58(2003)
 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010750382.pdf

14.杉浦和彦・井上勝弘・野々山利博・林元樹,全量基肥肥料による「コシヒカリ」の白未熟粒発生抑制,愛知県農総試研報,40,p.99-105(2008)

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16.若松謙一・佐々木修・上薗一郎・田中明男,水稲登熟期の高温条件下における背白米の発生に及ぼす窒素施肥量の影響,日作紀,77(4),p.424-433(2008)

17.近藤始彦ら,水稲の乳白粒・基白粒発生と登熟気温および玄米タンパク含有率との関係-全国連絡試験による解析-,第222回日本作物学会講演会,p.14(2006)
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsproc/222/0/222_0_14/_pdf/-char/ja

18.異常気象に負けないリスク軽減対策,水稲の技術対策情報(臨時号),新潟県農林水産部,令和6年3月1日

19.「ひとめぼれ」における高温登熟条件下の出穂期追肥の効果と幼穂形成期生育の目安,福島県農業総合センター作物園芸部稲作科,行政支援情報,
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/644540.pdf

20.谷俊男,水稲高温障害による外観品質低下の技術対策について~土壌からの窒素供給量を考慮した施肥改善による白未熟粒の発生防止~,
 https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/476267.pdf

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 https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/shikenkenkyuu/documents/01r1-01.pdf

22.水稲の高温障害対策と病害虫防除の徹底について,岡山県勝英農業普及指導センター,緊急情報No.2,令和7年7月9日,
 https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/985757_9495578_misc.pdf

 

 

苗箱まかせ」に関わる研究を振り返って(6)
-育苗箱全量基肥と疎植栽培の技術融合に関する検討(本田栽培)-

宇都宮大学農学部附属農場
高橋 行継

Introduction

 水稲育苗箱全量基肥栽培(以下,箱全量)はこれまで紹介してきた通り,水稲栽培の省力・低コスト栽培に大きく貢献できる施肥法である。一方,水稲疎植栽培(以下,疎植)は,移植時の栽植密度を低くし,移植に必要な育苗箱数を少なくすることで省力・低コスト化を目指す技術である。

 両技術の同時導入を考えた場合,疎植に伴う必要育苗箱数の減少によって,1箱当たり施肥量が大幅に増加することになる。一般に株間30cm,栽植密度(以下,密度)11.1株/㎡の疎植で必要になる育苗箱数は10箱程度とされ,単純計算で標準施肥量に対して2倍程度の肥料が必要になる。しかしながら,具体的な研究は鳥取県(板東 2009)にみられる程度である。

 そこで,宇都宮大学農学部附属農場(以下,農場)において,2010年~2012年の3か年にわたって,プール育苗条件で疎植を前提とした育苗箱内多肥条件下での箱全量技術の育苗,本田生育および収量・品質等の検討を行った。前報に引き続いて,本報では本田生育と収量・品質について報告する。

2.調査方法

 試験は2010~2012年の3か年,群馬県館林市当郷町の現地育苗用圃場と水田5a(灰色低地土)において実施した。供試品種は3か年を通じて「あさひの夢」とした。毎年水稲のみの作付けで,前年の稲藁は全量を圃場内に鋤込んでいる。

 3か年共に5月4日に現地で播種(乾籾100g/箱),育苗をした。供試肥料として水稲育苗箱施肥専用肥料(「苗箱まかせ」NK301-100)を用いた。

 本田試験区として栽植密度の異なる疎植区(11.1株/㎡),中間区(18.1株/㎡),密植区(24.2株/㎡),の3区を設定し,この他に慣行区(18.1株/㎡)を化成肥料(化成オール14)により基肥を全層施肥で窒素成分5kg/10a,穂肥をNK化成(窒素18%,燐酸0%,加里16%)で表層施肥により2kg/10a施用して設定した。参考区として施肥を一切行わない無肥料区も設定し,栽植密度は中間区と同一とした。

 疎植,中間,密植の3区の施肥量は10a当たり窒素成分で2010年と2011年は3.5kg,2012年は4.2kg(慣行区の窒素施肥量に対する減肥率は2010年と2011年は50%,2012年のみ40%)になるようにした。具体的な箱当たり施肥量は2010年と2011年は疎植,中間,密植区の順に1280g,800g,580g,2012年は同様に1400g,865g,650gとした。

 移植作業後に推定した10a当たり実窒素成分の施肥量(減肥率)は,疎植,中間,密植区の順で2010年は3.4kg(51%),3.2kg(54%),3.3kg(53%),2011年は3.3kg(54%),3.5kg(50%),3.4kg(51%),2012年は4.2kg(40%),3.9kg(44%),4.0kg(43%)であった。

 移植は2010年6月14日,2011年6月2日,2012年6月11日に疎植対応のイセキ乗用型4条田植機により行った。各区の栽植密度は収穫時に実測して茎数と穂数,玄米重等を算出した。試験区は乱塊法による2反復とした。

 本田移植後,概ね3週間目と6週間目に生育調査を実施,草丈,茎数,葉色を各区につき2か所,10個体ずつ調査した。葉色はコニカミノルタSPAD502で最上位展開葉の中央部を,上記の生育調査後ほぼ2週間おきに測定した。出穂期と成熟期は観察により調査を行った。9月上旬に稈長,穂長を,10月上旬の収穫時に穂数,倒伏程度を調査した。倒伏は観察で0(無)~5(甚)の6段階判定とした。

 稈長,穂長の調査個体数は生育調査に準じ,穂数は1区1か所につき40株,2か所計80株を全て調査した。穂数の調査株を2か所40株ずつ全て収穫して風乾後,個別に脱穀籾すりを行い,玄米重,千粒重を調査した。全籾数は脱穀時に調査サンプルの全籾を回収,均分器で1/16にしたサンプルの籾数を計測して㎡当たりに換算した。登熟歩合は,粒厚1.8mm以上の玄米の千粒重と単位面積当たり玄米重から同玄米粒数を計算して,先に求めた全籾数で除して求めた(楠田 1995)。外観品質は1(上上)~9(下下)の9段階評価とした。

 玄米タンパク質含有率は近赤外線食味分析計(静岡製機)で計測した。粒厚分布は粒厚1.8mm以上の玄米100gについて,坪刈用縦目篩選別機を用いて5分間振盪し,1.8~2.2mmの0.1mm毎に分別し,粒厚2.0mm以上を大粒としてその割合を大粒歩合とした(以下,大粒歩合)。

3.調査結果

①本田生育

 各年次のデータを表1~3に示した。ここでは3か年を通じての結果を総括しながら説明する。

 各年次の気象状況によって生育状況に差があるが,移植後20~23日目の調査ではほとんど差がなかった2012年を除き,箱全量各区で慣行区を2~5cm程度上回る草丈となった。株当たり茎数は栽植密度が低くなるほど増加する傾向にあったが,㎡当たりの面積換算(以下,面積換算)ではその逆に疎植区で最も少ない茎数になった。同40~45日目調査では草丈に有意な差は認められなくなった。

 茎数は株当たりでは疎植区では慣行区を含めた他区に対して有意に増加する一方で,面積換算では少なくなる傾向があった。その差は2011年では慣行区の429本,密植,中間区の375,393本に対して315本と有意に減少した。2回の生育期調査と成熟期調査での茎数・穂数の対比から,最高分げつ期に達する時期は栽植密度が低くなるほど遅れる傾向にあることが推察された。

 成熟期調査から減肥率を2010,2011年の50%から40%に見直した2012年の穂数をみると,前2回の調査と同じ傾向を示した。株当たり穂数は疎植区では28.3本で,中間,密植両区の17.8本,15.5本に対して有意に増加した。面積換算では疎植区が302本で, 中間,密植両区の317本,350本に対して減少し,3か年の結果を通じて株当たり穂数の増加で単位面積当たり穂数を補うことはできなかった。成熟期の稈長,穂長には3か年共に有意な差が認められなかった。

 なお,倒伏は3か年を通じて全試験区で発生はみられず,収量や外観品質に与える影響はなかった。

②葉色(SPAD値)の推移

 2010年の葉色の推移をみると(図1),疎植区が移植後94日目の無肥料区を除き,その他の区よりも濃い葉色を維持していた。出穂期以降の葉色の低下が2012年同様の経過を示しており,成熟期に近い移植後114日目の葉色は疎植区と慣行区がそれぞれ24.3と23.8の同程度,中間区,密植区は同様に20.5と19.8となり,後二者の葉色低下がより大きかった。

 2011年は2010年同様,生育期間を通じて疎植区が他区よりも高い数値を示した。また,2010年と2012年は成熟期に近い9月下旬時点での葉色は25前後に低下したのに対して,出穂期を過ぎても30台前半を維持しており,出穂期から1~2低下した程度であった(図2)。

 2012年は疎植区が生育期間を通じてその他の区よりも濃い葉色を維持していた(図3)。出穂期以降の葉色の低下が目立ち,成熟期に近い移植後105日目の葉色は疎植と慣行区がそれぞれ24.3と23.3の同程度,中間,密植区は同様に22.2と21.0となり,後者の葉色低下が大きかった。

③収量と品質,粒厚分布

 3年間の収量,品質,収量構成要素を表4に示した。2010年の玄米重は中間区が最も多く57.3kg/a,疎植,密植両区は共に55.5kg/aであったが,有意な差ではなかった。千粒重は中間区が最大の24.1g,疎植区では最小の23.6gとなり,有意な差であった。屑米比や登熟歩合に有意差は認められなかった。単位面積当たりの全籾数は疎植区267百粒,中間区272百粒,密植区266百粒,1穂当たりでは疎植区は中間区,密植区の81.3粒,76.6粒を有意に上回る93.3粒となった。外観品質には有意な差はなかった。

 2011年の玄米重は中間,密植区が最も多く55.5kg/a,疎植区は54.2kg/aであったが有意な差ではなかった。千粒重は慣行区が24.3gで最大となり,箱全量各区内では疎植区が22.2gで最大になった。しかしながら,慣行区を含め中間,密植区との間に有意な差はなかった。

 2012年の玄米重は慣行区が最も多く52.7kg/a,疎植,中間,密植の3区はそれぞれ52.0,49.7,50.3kg/aであったが,いずれの間にも有意な差はなかった。千粒重は慣行区が24.1gで他区に対して最も大きく,屑米比は中間区の2.9%が最も低くなった。全籾数と1穂籾数には有意な区間差はなかったが,登熟歩合は疎植区が84.6%と他区の79.2~80.3%に対して有意に高くなった。

 屑米比や登熟歩合に有意な差は認められなかった。単位面積当たりの全籾数は疎植区295百粒,中間区304百粒,密植区296百粒で有意な差はなく,1穂当たりでは疎植区は中間,密植区の92.8粒,88.9粒を有意に上回る101.3粒となった。外観品質は年次ごとの試験設計が異なるため,単純な比較はできないが,同一年次内での差は無肥料区を除き最大0.5~0.8であった。

 3年間の粒厚分布を表5に示した。2010年の粒厚分布は中間区で大粒歩合が80.6%で他区の82.0~83.7%に対して有意に小さかった。2011年は慣行区の大粒歩合が83.7%と箱全量各区より3~4ポイントほど有意に高まった。2012年の粒厚2.0mm以上の大粒歩合に3つの箱全量区間の差はなかった。

Discussion and Summary

 前報で報告した通り,苗の生育はプール育苗と高温で本格的な肥料成分溶出が播種後20日過ぎから始まったことでやや徒長気味にはなるものの,移植時の作業性や移植精度に実用上の問題は特になかった(高橋ら 2017)。移植後の生育も特に問題なかったことから,疎植との技術融合による箱全量が水稲の生育収量に対して悪影響を与えている可能性はないと考えられる。

 疎植では標準的な栽植密度での栽培に対し,一般に分げつが促進されることで株当たりの茎数,穂数は増加する。その一方で,単位面積当たりの株数は少なくなるためにその穂数を標準的な栽植密度22株/㎡前後とで比較した結果,ほぼ差はなく,収量も遜色ないとの報告が多い(西山 1984,大野 2003,木村ら 2005)。すなわち,疎植では収量を確保するために株当たりの穂数,さらに単位面積当たりの籾数を確保できるかが栽培上の大きなポイントになるといえる。

 上記の条件を満たすためには栽培品種の分げつ能力,移植時期,気象条件などが関係してくるとされる(平野ら 1997,木村ら 2005)。穂重型品種より分げつ数を確保しやすい穂数型品種であること,栄養生長期間を長く確保できる早い移植時期で栽培すること,栽培期間の気温が高いことが挙げられる。平野ら(1997)の岩手県での研究報告から,気温条件が十分とはいえない高緯度地域での疎植は難しいことが示唆されている。

 群馬県平野部で実施した本研究で移植時期は大麦あとの稲麦二毛作作期に相当する。この作期では7月下旬に最高分げつ期に達し,栄養生長期間は40日程度と,水稲一毛作作期の80~90日よりかなり短い。分げつ期が6~7月の盛夏に近い高温であるとはいえ,疎植に適した作期とはいえない。また,晩植により出穂や成熟期も遅れるため,秋冷が早い年では成熟期後半に低温に遭遇して減収や品質低下が発生する懸念があり,特に疎植ではこの点でも不利になる可能性がある。

 実際に2010,2011年は9月下旬から10月初旬に低温に遭遇しているが,疎植区の収量・品質は中間区,密植区との比較で特に影響を受けないことが明らかになった。現地圃場がある館林市では平年値による水稲の栽培可能期間は4月下旬~10月下旬であることからも(羽生 1978),疎植導入に関して気温条件面での問題はほぼないといえる。

 以上のことから,群馬県で中晩生品種である「あさひの夢」を供試した結果,稲麦二毛作作期に近い6月上中旬移植で箱全量による疎植を行っても実用的な問題はないものと考えられた。

works cited

●板東 育苗箱全量施肥栽培(箱底施用)と疎植の組み合わせ 農業技術大系 追録第31号 農文協 (2009)

●羽生ら 農業気候2作物栽培と気候 農業気象 文永堂(1978)

●平野ら 窒素施肥体系および疎植の組み合わせ栽培が水稲の生育および収量に及ばす影響 日作紀 66-4(1997)

●木村ら 疎植水稲の生育特性と安定生産技術 愛媛県農業試験場研究報告 39(2005)

●楠田 水稲の収量及び収量構成要素の調査方法について 植調 29(1995)

●西山 補植をしない稲作のすすめ 農業および園芸 61-1(1984)

●大野 水稲の疎植栽培が生産費低減に及ぼす効果.農業技術 58-9(2003)

●高橋ら プール育苗条件での水稲育苗箱全量基肥栽培における育苗箱内施肥量の検討 日作紀 86-3 (2017)